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2012年4月号vol.417

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関塾 タイムス

私の勉学時代

東京理科大学学長 藤嶋昭先生に聞く

世界は「面白い」で満ちている
興味のあることはとことん調べてみよう!
1881(明治14)年、「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という志のもと、青年理学士ら21名によって創設された東京物理学講習所を源流とする東京理科大学は、2011年に創立130周年を迎えました。今回は、「実力主義」を実現し続けてきた同大学に、2010年学長として就任された藤嶋昭先生にお話を伺いました。世界的な研究者でありながら、今なお探究心を忘れない藤嶋先生にぜひ刺激を受けてください!

■Profile
藤嶋昭(ふじしま・あきら)

1942年東京都生まれ。工学博士。
66年横浜国立大学工学部卒業。71年東京大学大学院博士課程修了後、75年東京大学工学部講師を務める。76〜77年テキサス大学オースチン校博士研究員。78年東京大学工学部助教授に、86年同学部教授、95年同大学大学院工学系研究科教授を歴任する。2003年には財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長、東京大学名誉教授に就任。05年には東京大学特別栄誉教授となる。この他にも日本化学会会長、日本学術会議会員などを歴任。10年東京理科大学学長に就任する。主な研究分野は光触媒、光機能材料。受賞歴に03年紫綬褒章、04年日本国際賞、川崎市市民栄誉賞、06年神奈川文化賞、恩賜発明賞、10年文化功労者、等。写真は先生が学生のために収集した新書図書コーナー「塚本・藤嶋 新書文庫」にて。


豊かな自然に囲かこまれて過ごす

私は東京都で生まれましたが、すぐに愛知県へと移り住み、小学校までそこで過ごしました。足助(2005年豊田市へ編入)という大変山奥の町です。家から歩いて1時間ほどのところに、紅葉の名所として名高い香嵐渓(*1)がありました。足助はわずか14戸の小規模な山村でした。私の祖父は、20代で足助にある小学校の校長を務めましたが、それで満足せずに東京へ出てきたという大変活動的な人でした。ですが、私が生まれた当時は太平洋戦争の真っただ中でしたので、戦火を逃れるため一家で足助へ疎開したわけです。
足助は長閑すぎるほど長閑なところでした。小学校のクラスメイトはたったの14名。小学校時代のクラスメイトや先生とは、今でも交流があります。ちょうど尺貫法(*2)からメートル法に切り替わった時で、先生が尺貫法とメートル法の違いを丁寧に教えてくださったことは今でも覚えていますね。
ビーカーに水を入れて「これが1Lだよ」というふうに、一つずつ示してくださいました。また、クラス半数ずつに分かれて「新聞とラジオ、どちらの情報が大事か」という討論をしたことも覚えています。大変面白かったですね。

*1 香嵐渓…愛知県豊田市にある巴川がつくる渓谷で、愛知高原国定公園の一角にあたる。紅葉やカタクリの花が彩る景色が有名で、毎年秋になると全国から観光客が訪れる。
*2 尺貫法…長さの単位に尺、質量の単位に貫を基本の単位とする単位系のこと。日本では1951年に計量法が施行され、メートル法の使用が義務付けられた。

「自然に親しみ、感動する」体験

戦後の貧しく何もない時代でしたが、大変楽しい小学生時代を過ごしました。遊び道具もなかったので、夜は星空を見上げたり、たくさん飛んでいる蛍を数えたりしましたね。澄んだ夜空にくっきりと浮かぶ星たちは大変きれいで、流れ星も必ず見ることができました。今思えば、私が理系に興味を持ったきっかけは、この頃の体験にあったのだと思います。皆さんにも、流れ星が雨のように降る「本当の星空」を、ぜひ体験してほしいものです。
小学校を卒業した後は、再び東京に戻って来ました。環境がまったく違ったので、慣れるまでは少し大変でしたね。でも、多摩川に釣りに行ったり、雑草の名前を覚えたり、虫を観察したりということは続けていました。このような「自然に親しみ、感動する」という体験を続けてこられたから、理系へ進もうと思ったのでしょう。

夏休みの出前授業

私が「研究者になろう」と思ったのは、大学に進学した後です。大学では大変面白い経験をしたのですよ。
化学の基礎で最も大切なのは、量子力学という学問です。まず私は、この量子力学を理解することが大事だと思いました。そこで、大学2年生の春休みを利用して朝永振一郎(*3)先生の『量子力学』を読もうと決意します。友人数人に「合宿してこの本を勉強しよう」と声をかけ、資金は自分たちで用意しようと決めました。アルバイトをして1万円ほど稼ぎましたよ。そのお金で本を買い、伊豆の民宿で10日間、皆で自炊しながら合宿し本を読破しました。
春休みの目標が達成できたので、大学2年生の夏休みはいろんな場所を旅してみようということになりました。再びアルバイトで1万円を稼ぎ、鉄道の均一周遊券を買ったのはいいのですが、問題は宿泊先です。そこで私は「学校に泊まらせてもらうのはどうか」と考えました。そして、学校に泊まるために夏休みの特別授業を開催することを思いつきます。さっそく福井県と島根県の教育委員会に手紙を書き、数校の中学校から快諾をいただきました。旅行は4人で行ったのですが、それぞれ教える教科を決め、数日間かけて授業の準備をし、宿直室で寝泊まりをしながら数日間連続の授業を行いました。出張夏期講習のようなものですね。3年生の夏休みには、青森県の竜飛岬にある中学校まで行ったんですよ。出張授業で私は理科を担当しましたが、教える楽しさというものを実感しましたね。このように楽しみながら学問を進めてこられたことが、研究者や教育者としての私の素地になっていると思います。
大学の卒業論文のテーマは「試薬の純度」でした。卒業と同時にこの論文を学会に発表し、研究者を目指すために東京大学の大学院に進学します。大学院では夢中になって、それこそ「燃えるように」研究に没頭しましたね。そして、大学院の修士課程1年生の時に「光触媒」を発見しました。光触媒という言葉、皆さんも聞いたことがあるかもしれませんね。光触媒とは、光を照射することで触媒(特定の化学反応の反応速度を速める物質)作用を示す物質のことです。
エアコンのフィルターに取り付けて、そこに光を照射することで室内の空気の汚れを落とすという技術にも応用されています。
現在この発見は、一緒に論文を書いた本多健一先生と私の名から「本多?藤嶋効果」と呼ばれ世界中に知られています。

*3 朝永振一郎…1906〜1979年。東京都出身。物理学者。65年、量子電気力学分野の基礎的研究の成果が認められノーベル物理学賞を受賞。

加古里子先生の絵本

私が幼い頃は「本を読む環境」が十分に整っていませんでした。だからこそ、皆さんにはぜひ本を読んでほしいと思います。特に小学生の頃から良書に触れているのといないのとでは、まったく違うと思うのです。
2009年4月〜2011年3月までの2年間、私は朝日小学生新聞で「ドキドキ書店へようこそ、本っておもしろい」というコーナーで、本の紹介記事を連載していました。世界の伝記や名作、絵本など様々な本について書いてきましたが、中でも「これはおすすめ!」という童話作家を一人紹介したいと思います。私も親しくさせていただいているのですが、加古里子(*4)先生といって、御年85歳にして500冊の著書があるというすごい方です。先生は最高の絵本作家ですよ。私の一番の愛読書は『ピラミッド―その歴史と科学』(偕成社)なのですが、ピラミッドの姿から当時の人々の服装まで、細かな部分も見事に再現されています。先生は一冊の絵本を仕上げるのに、膨大な資料を読み、数年という歳月をかけます。ミリオンセラーとなった『だるまちゃんとてんぐちゃん(こどものとも絵本)』(福音館書店)から、子どもも大人も一緒に学べる『宇宙―そのひろがりをしろう(かがくのほん)』まで、本当にどれも手に取ってほしい本ばかりです。ぜひ読んでみてくださいね。

*4 加古里子…1926年3月31日福井県生まれ。絵本作家、児童文学者。東京大学工学部を卒業後、昭和電工に入社。73年退社後、現在まで多作な活動を続けている。2008年菊池寛賞を受賞。

世界は「面白い」で満ちている

大学に入学するまでは、学問に関しては基礎を磨くことに集中してください。そして、その中から皆さんにとっての「面白い」を見つけて見聞を広めてほしいと思います。私は今でも日々「面白い」ことに出会い、感動しているのですよ。皆さんは、なぜ“桜前線”はあるのに“梅前線”はないか知っていますか? これはソメイヨシノという江戸時代の染井村で育てられた桜の木を、枝分けして全国に植えたからなんです。同じDNAを持つ桜の木だから、開花する気候条件が一緒なんですね。梅は種を植えて育てますので、開花の気候条件が揃わないのです。タンポポにも大変興味があり、タンポポに関する本は絵本から専門的な資料まで、何でも買い集めました。タンポポの花が種になると綿毛になりますね。綿毛になったタンポポの茎は、風にうまく乗って飛ぶように、すっと伸びるのです。自然は本当によくできていると思います。
世界は「面白い」で満ちています。理系文系問わず興味を持ったことをとことん調べてほしいですね。よく「理系に興味を持たせるにはどうしたらいいですか?」と保護者の方に聞かれますが、もし興味を持たせたいと思うなら、まずは保護者の方が雑草の名前を20種ほど覚えてください。そして、お子さんを誘って近所を散歩してください。道端や公園に生えている雑草を指し、「あの草の名前はなんだろうね?」と言って、興味を持つきっかけをつくってあげましょう。




コラム
 

受け継がれる「実力主義」
創立130周年を迎えた東京理科大学には、創立当初から「実力主義」の伝統があります。例えば初年時教育において、理数系基礎科目(数学・理科[物理・化学])の補習授業や、2年次以上の学生が1年生に対して授業での不明点の相談に応じる「学習相談室」など、基礎学力の上に高度な専門能力を養う環境が整っています。学生が高いモチベーションをもって互いに切磋琢磨できる環境が整っているのですね。世界を舞台に活躍する人材を育てるための研究体制も充実していて、大学院進学率も50.4%(平成22年度)と半数以上。藤嶋先生も全国を巡る講演会の中で、保護者の方からよく「うちの子は東京理科大学に進学して勉強するようになった」と言われるそうですよ。



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